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  • 執筆者の写真天野圭介

循環する暮らしづくりの連続講座開催

隣町のお施主様にご依頼頂き、循環する暮らしの骨格づくりをお手伝いさせて頂くことになりました。敷地は広く、山林含めて約3,000坪。山あり、谷あり、竹林あり。元鶏舎の建物があったり、様々な果樹が植わっていたり。すぐ近所の伝統ある大庄屋の家から分家した古民家が建っており、昔は馬や羊も飼っていたそう。セルフビルドの家や古民家の改修も進行中で、ゆくゆくはレストランやお店も開業する予定とのこと。施主さんは熱意と経験ある若い家族で、旦那さんは建築士、奥さんは沖縄で伝統的な染め物をおこなっていた経験を持つ。二人で世界を旅して周った経験があり、その経験も踏まえてこれから日本の田舎に根を下ろし、自給的で循環型の暮らしを育んでいきたいとのこと。


最近はこのご家族のように人本来の暮らし方、在り方に目覚め、一から暮らしを創っていきたいという方が増えてきております。とは言うものの、自分たちも経験しているので分かるのですが、最初の動き出しの部分では相当のエネルギーが必要になってきます。敷地の手入れから家屋の改修、生業、育児、地域行事など、全てを同時進行で進めていく為、家族の結束とバランス感覚、そして人手が必要になってきます。地域に入る、地域に根差すとは、実に様々な役割を担って生活していくことを意味します。


ということで、このご家族の経験しようとしていることは他の方々の興味のあることだったり、学びたいことだったり、応援したいことでもあるので、定期的に講座形式でワークショップを開催し、皆で協力しながら進めていく形で暮らしの場づくりをしていこうということになりました☆我が家でも講座を開催し、沢山の方々に御協力頂いたので、良き人脈作りも含めての講座開催がこの家族には良いと思いました。


第一回目のテーマは、「今、此処(ここ)、此の時を知る」。これから循環する暮らしづくりを育んでいく上で、これから住んでいく場所がどういう場所なのか、どういう特徴があるのか、そして今どういう状態なのかを知ることは極めて大事な第一歩です。具体的には自分の住む場所を含む流域がどのような状態になっているのかを知ること。沢、川などの地上流と地下水脈の流れや状態、山の植生、地質、地形などなど。自分の住む場所が大きな視点で見た時にどのような場所に位置しているのかを把握する為に、まずは地図や地形図、水系図、または流域調査をおこない、その様子を参加者の皆さんと共有しました。


このご家族が住もうとする地域には上流部に大きなダム湖が存在し、そこで大きな河川水の滞留が起こっています。河床は流れることのできない土砂でどんどんと高くなり、結果山全体の水と空氣の地下への「抜け」が悪くなり、植物の全体的呼吸量が低下してきていることが確認できました。人工林化された渓畔林の植生などと合わせて、近隣の沢筋は崩れて埋まり、泥が溜まり、下流域まで泥汚染が広がっています。清流の底には泥と流れることができずに溜まった土砂が堆積していっている状況。この流域に暮らす人々にとっては一番重要で、いの一番に改善すべきである水の動きと質の低下ということが問題視されることなく、ただただこの流域の生命に重い負担をかけ続けています。


(ダム湖の形成により集落が一つ移転・消滅。水が淀み、大きな負のエネルギーを貯め込んでいる。水は淀むと結晶構造が破壊され、自浄作用や情報伝達能力が損なわれる。)


(岩盤が剝き出しになっている沢沿いの人工林化。岩盤の上では針葉樹は根を深く張れず、倒木となったり根で土砂の流出を食い止める効果が著しく減退する。渓畔林にはやはり樫や椎の様な極相林を形成する広葉樹林が適している。)


(渓畔林が人工林化されると風化した岩石が沢にザラザラと崩れ落ち、沢を埋めてしまう。このような状態になると水は本来の動きを阻害され、沢に泥が溜まり始める。泥汚染は支流の源流部から既に始まっている。)


(ダム、砂防ダム、沢を横切る道路下に埋められたコルゲート管、渓畔林の人工林化などの複合的な作用の結果として、河川には土砂が堆積し泥が溜まり、清流はくすんで川底にはぬるぬるとした茶色のコケが生えてくる。川底が埋まることで山全体の地表流、地下水脈の動きが鈍り、停滞し、流域全体が息を落としていく。ここまで鮮明に自然は人に問題を投げかけているにも関わらず、人の社会はこれをほとんど問題視できていない。)


(本筋の流れを失った川。本来川には流れの強い主水流があり、大きな岩や窪み、渕などにぶつかって蛇行し、渦巻き、螺旋状の渦流を形成して流れていく。渦流の中心には強い求心力が働き、周りの水を引き込み、泥や土砂を浮き上がらせて下流域に運んでいく。水の流れが正常な河川ではもっと大きな岩がゴロゴロと点在し、しぶきを上げてエネルギーを解き放ちながら流れていく。今全国各地で写真の様な本流を失った「のっぺりとした川」を目にするようになってしまった。)

(裏山や周辺環境と暮らしが切り離されてしまった里山風景。昔は沢から水を引き、裏山で焚き付けや薪を拾って生活していた。裏山は明るく、若い広葉樹を中心に形成され、冬には林床までしっかりと日が当たり、たくさんの植物が群生し、生き物も豊かだった。家の周囲には水路が掘られ、生活排水は田んぼへの水路につながり、石垣や生垣がきれいに手入れされ、実に美しい日本の原風景があった。暮らしに必要なエネルギー源が石油由来のものに変えられ、上水道が整備され、裏山や沢には用が無くなった。それどころか今はお荷物だ。家の裏側には土砂災害防止の名目で大きな擁壁と安全ネットが張り巡らされ、物理的にも心理的にも暮らしと裏山とは断絶された。人が自然に根差して暮らす場合、一家庭の守る生活環境はとても広い。その個々が集落を形成し、皆で暮らしの基盤を手入れしていた為に、これだけ広大な里山文化が成り立っていた。今一度このような里山の暮らしを一から作り直していきたいものだ。)


(河床が上がるので、堤防を上げるのいたちごっこ。今では宅地の地面が河床より低い地域を目にすることが多い。コンクリート護岸は植物の種が取り付く島を与えず、植物などの自然の護岸力を味方にできず、絶え間なくお金と時間、労力をつぎ込み続ける結末になっている。人口減少していく日本社会において、これから誰がこの環境を担っていくのであろう?今こそ流域に住む住民全体でこれを問題視し、しっかりと向き合って解決策を考え、実行していく必要がある。幸いなことに、自然界のエネルギーは無限であり、常に我々を応援し続けてくれているので、この力を味方につければ川の復活は驚くほど速いと考える。)


流域調査の結果を皆で共有し、後半は循環する暮らしの骨格作りの話。①地形づくり、②インプットとアウトプットへの配慮、③生業づくり、④人脈づくりと続き、我が家で実践している循環型の暮らしの事例を参考に紹介。午後は皆で実際のフィールドを歩き、植物に聴き、土に聴き、今のフィールドの現状を確認。この場所に縁のある人、興味を持つ人、応援してくれる人などなど、実にたくさんの方々に参加して頂き、第一回目の講座は無事終了。今後は地形づくりの部分から実際に作業に入り、地形の安定化、風当たりを軽減する植裁、土留め工などに着手していく予定。


この家族がこの地に根差し、開き、伝え手になっていく為の大事な正念場。これを皆で共に、楽しく歩んでいけるといいなと思います。



(流域調査などの共有の様子)



(果樹に学ぶ)



(土に学ぶ)

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