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執筆者の写真天野圭介

地域の環境と共に 循環型みかん園の圃場整備

この度、友人のみかん農家である位田みかん園の位田達彦さまからご依頼頂き、みかん園の改植作業(40年に一度の木の植替え)をおこなわせて頂きました。


ここ浜松市三ケ日町は全国的にも有名なみかんの産地であり、浜名湖沿いに広がるなだらかな山地形、排水性が良く暖まり易い地質、そして湖畔沿いの温暖な微気象と三拍子揃ったみかんの栽培にうってつけの場所です。

(位田みかん園のホームページ↓)

(三ケ日みかんの歴史は↓参照)



(今回の改植地付近から浜名湖を望む。山の幸、海の幸、川の幸、そして野の幸。多様な環境が入り組み、つながることで豊かさがグッと凝縮された環境が生まれる。自分が住む山の中とはまた違い、暖かくてほんとにいいところだな~としみじみ思う。こういう所に人類は古くから村を築き、暮らしてきたんだなと納得する。)


(改植地を遠望する。山腹に位置し、傾斜が若干緩くなった斜面に位置する。場所によっては水がしみ出す部分が散見される尾根の中の微妙な窪み地形。山頂部の広葉樹林と繋がっており、野趣あふれるみかんが育ちそう。日当たり、地質、地形、地力、どれをとっても申し分ない。)


位田さんは8年ほど前に愛知県から移住され、最初は本職の畳職人をやる予定だったそうだ。しかし、移住してみると農家の高齢化や跡継ぎ不足などの理由から、農地や設備、機械等を譲ってくれたり、売却したいという話がどんどん増えてきたという。今後の畳の需要動向も見据え、元々好きだった農業で勝負をしようと決意し、就農することとなった。位田みかん園では無農薬栽培にも力を入れており、今回依頼して頂いた圃場では無農薬、低農薬でみかんを栽培していく方針。


私が三ケ日でまずイメージすること、それは表土の流出でした。高速道路を走っていると見えるみかん園。日当たりのよい斜面にみかんの青々とした木々が並び、一見とてものどかな光景に見えるのですが、除草剤などの影響で剥き出しになった真っ赤な土が雨の度に抉られて浜名湖に流れ込んでいます。作業期間中も何度か大雨が降ったのですが、朝見ると浜名湖が赤茶色に濁っていました。水生生物の生息環境もこの土砂によって大分疲弊してきています。


農業を取り囲む環境も年々厳しさを増していく中、私は毎日作物と向き合い、営農している方々を心から尊敬しています。私自身も埼玉県小川町の霜里農場で金子夫妻に弟子入りし、1年間みっちりと修業を積ませて頂き、農業の楽しさ、そして厳しさを体感しました。昨今は物価高や気候変動など、いよいよリスクが増していく環境下で、今後どのような農業の姿を目指していくのか。私は自然の理に叶った方法で農園を管理し、農業者も楽しく生活ができ、収益も上げられ、消費者は農家の生活を支え、そこに住む地域の人々の暮らし、そしてその地域環境に対してもプラスの影響を生む農業の在り方を想っています。それを絵に描いた餅ではなく、実際の現実として起こして見せる為にまず何が必要か?私はそれが農園を管理する為の管理道(作業道)の設計にあると感じ、今回位田さんに水の流れを緩め、雨が大地に浸透していくよう促していくような環境整備を提案しました。その提案が位田さんの描いているビジョンと一致して、実際に作業に入らせて頂くことになりました。


(やむなく手放されたみかん園にはみかんの木が散在し、雑草、灌木が生い茂る状態に。農薬や化学肥料を使った管理がおこなわれなくなると、環境耐性の強い雑草が繁茂し、土中に偏った養分などを吸収しながら亡骸層をつくり、表土を育てる。そこに灌木の種が鳥などによって運ばれてきて芽生え、初期の森へと成長していく。こうやって人の開拓した跡と歴史がまた森に戻っていく。いつだって、自然は黙って、ただ粛々と、ありのままにこの自然の世界の法則を見せ、表してくれる。こういう働きに倣って農業をしていけばいい。)


(大中小と3つの園地に分かれた約3反の圃場を整備していく。写真は大園地の草刈りの様子。まずは地上部を整理し、地形の特徴と水の流れを読む。作物の成長と圃場の安定化に欠かせないこと、それは地表を流れる水の流れを整え、治めること。そしてもう一つは、地表と地中の空氣と水の循環を健全に保つこと。全ての生き物にとってなくてはならない命の培地である水。この水の状態、質、動き、温度、情報、記憶などによってその場の状態が変わってくるし、作物の成長も大きく変化する。)


(中園地、整備前の様子。)


(小園地、整備前の様子)


大中小それぞれの園地の草刈りを終えると、それぞれの園地の地形と特徴が見えてきます。大園地は圃場の中央付近を縦に流れる石積みの水路跡があり、なんだか気になります。中園地は乾いている場所と湿っている場所がはっきりと分かれており、うっすらとした尾根を境に地下水の集まる場所とそうでない場所が分かれています。小園地は地表から1mくらい下に大きな岩盤がでており、雨が降るとその岩盤と表土の境から水が湧き出してきます。最初伐採される予定だった小園地の水の湧き出し部の木々を残してもらうことにして、大きな樫の根で表土をがっしりと安定させるようにしました。


さてここから大事なことは、園の管理の効率化(農業経営)と環境としての安定化の両立を図ることです。第一に、圃場が自然の循環機能に連動し、周辺環境と農業経営にとってプラスの環境を生み出す状態に整えること。次にその環境が改植に対する補助金の対象となる条件を満たしていること。慣行農業での改植となると、その場に生えていた草、木は全て伐根して園外に持ち出し、処分します。その後圃場を全面的にバックホーで天地返しします(深い部分の土と表土を入れ替えること。深い部分まで耕すこと)。しかし、私は天地返しした土は今まで長い年月をかけて培われてきた土壌中の空隙や構造を潰してしまうものと考えており、むしろ木の根草の根は残すべきと考えています。土中の構造や亡骸が残ることで、新たに植えられる木々がそれに倣い、根を張っていくことができます。その為木々の根っこは最大限残し、有機物は最大限その地に戻すように工夫しました。


次に圃場内に管理の為の機械が通る道を付けていきます。周辺の圃場を見渡すと、傾斜に沿うような道がつけられているケースが目立ちます。これでは大雨が降った際に水が走り、地面を抉ってしまい管理道はすぐに壊れてしまいます。また周辺環境(沢、川、浜名湖等)にも泥汚染を生む原因となってしまいます。ではそれを防ぐ為にはどうすればいいのか?その為には等高線に沿うような緩やかな道を設計し、所々で計画的に排水、分散浸透させる道をつくることが肝心です。


(大園地草刈り後の管理道開設の様子。石が多く、しっかりと固い道が作れる地質だ。表土を丁寧により分け、その場にあった石、草、根などは組み替えていく。)


(写真中央の石積みは水路の跡。圃場の様子から見て、恐らく先々代以前に築かれたものではないかと推測。森を開き、石を積み、みかんを育てる。その途方もない労力を垣間見ると、本当に脱帽する思いだ。この水路はしっかりとした観察の上で作られたものであり、道をつけていくと自然と道の勾配がこの水路に向き、ここで排水するのが一番理に叶った形になる。恐らく先代からこの水路の意図を見失い、放置されたんだろう。大切に修復し、再度利用させてもらう。時を超え、会ったこともない人が作ったのものだけど、なんだかこれを作った人とは気が合いそうだ。)


(道を開設するとそこは雨水が流れる場所にもなる。道は諸刃の剣であり、便利なものだがその分注意が必要だ。水を緩やかに集め、排水する場所はその両端よりも深く掘り込み、石を敷詰める。これにより道の強度を出しつつ排水性能を確保。泥が詰まらないようにその上に枝や草をかけて泥濾しをつくり、小石を詰めて仕上げていく。)

(管理道を整備した後の大園地の様子。傾斜に対して直交する形で緩やかな道がつけられたことで、雨が降った際に水が走りづらくなり、浸透性も増す。斜面にはよく見ると所々棚とよばれる地形的に安定して硬い、平らな部分が連続して繋がっている。その棚とみかんの木の畝間の間隔とが合うように道を設計していく。雨は計画的に水路にて排水されるように設計し、道は表土が硬く締まりすぎないよう、でも機械が入った際にはしっかりと走れるように仕上げる。浸透力と堅牢さの両方を兼ね備えた道であることが重要。道は一時的に裸地となっているが、温度差や乾湿差によるひび割れが起き、次第にすぐ雑草が生えてきて覆われる為、土砂の流出は最小限で済む。)


(中園地、水の湧き出る部分の様子。埋め立ててしまうと水の路が変わってしまったり、水がうんでしまうので沢に誘導する。)


(小園地の整備の様子。植え付けする畝の傾斜上部に溝を掘り、その場にあるみかんの枝、楢の枝などの有機物と少量の炭を溝に入れ、軽く埋め戻す。こうすることで斜面を流れる雨が緩やかに溝に流れ込み、地が緩み、みかんの根っこが張り易い環境をつくってくれる。畝立て、土中と表土の環境改善、作物の成長促進をまとめて担う"脈"をつくる。)


(中園地、傾斜に対して蛇行した管理道を整備。水が集まらず、乾いて固い尾根部分のみに道を入れる。水が集まる谷部分に道を付けるといいことはない。常に道がぬかるみ作業はやりづらく、事故につながる危険性も高い。そのような場所に作った道は常に雨風の侵食と攻撃を受け、園地も荒れていく。自然の理に叶った整備が重要である。)


(小園地整備後の様子。)


(大園地に位田みかん園のスタッフの皆さんと一緒に苗木を植えていく。根穴を掘り、苗木の根を支え、安定させるように木の枝を根回りに差し込み根を固定する。土を埋め戻したらたくさん水は与えない。大量に水を与える事で根回りの空隙を潰し、根の呼吸不全を招いてしまう。苗木はその場に適応しようと即座に反応し、芽を膨らませたり葉を落とし、秘められていた生命力を解放する。)


(大園地整備後の様子。営農、経営、環境、どれにとっても良い園地に育てていくために、今後は園の風通し(草刈り)が大切な管理になってくる。草を育てる気持ちで撫で刈りし、道や畝の表土を覆い、育てる。自然の循環機能が常に応援してくれる骨格に園地を育てる。)


(定植直後に寒さと強風にあい、我慢しながらもしっかりと芽吹いてくれたみかんの苗木)

(近隣の園の様子。状況によるが、定植の際に根回りの通気不全が起こるとその影響をいつまでも引きずってしまうケースが見られる。同じ時期に植えた苗でも成長にばらつきが出る。枝葉は徒長し、枯れるものも出てくる。)


色々と学ぶ事が多く、これからしっかりと手入れしていかないといけない状況だが、今後の木々の成長と、位田みかん園がとても楽しみだ。今後も継続的に関わらせていただける様、一歩一歩進みながら結果を出し、農業と地域が共に栄えていける、そんなこれからの循環型の農業の姿を創っていきたい。貴重な経験をさせて下さった位田みかん園の皆様と、共に汗を流してくれた仲間に感謝!挑戦はまだまだこれから続きますので、今後もお楽しみに♪


あと、位田みかん園のみかんとみかんジュース最高に美味しいので是非ご注文を!

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